LivRoot税理士法人 > 税務・会計・財務の学習記事 > 個人事業主 > 【2026年版】賃上げ促進税制とは|中小企業・個人事業主の要件と控除率
【2026年版】賃上げ促進税制とは|中小企業・個人事業主の要件と控除率

従業員の給与を前年より増やすと、その増加額の一定割合を法人税(個人事業主は所得税)から直接差し引ける制度が賃上げ促進税制です。所得控除ではなく税額控除のため、減税効果がそのまま手元資金に残ります。一方で、令和8年度税制改正により大企業向けの措置は廃止され、中小企業向けでも教育訓練費の上乗せがなくなるなど、内容が大きく変わりました。この記事では、中小企業と個人事業主が使う措置を中心に、適用要件と控除率、令和8年度改正の内容、控除しきれなかった金額を5年間繰り越せる仕組み、申告の手続きまでを、2026年時点の制度にもとづいて解説します。
この記事のポイントは次の3点です。
- 中小企業向けは、雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増えていれば増加額の15%、2.5%以上なら30%、くるみん・えるぼしの認定があればさらに5%を加えて最大35%を法人税額から控除できる
- 令和8年度改正で、全法人向け(大企業向け)の措置は令和8年3月31日をもって廃止され、中小企業向けと中堅企業向けの教育訓練費の上乗せも廃止された。法人は令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、個人事業主は令和9年分から適用される
- 青色申告をしている個人事業主も対象。従業員1,000人以下の「中小事業者」なら法人の中小企業向けと同じ要件で、令和9年分まで使える
1. 賃上げ促進税制とは
1.1 制度の仕組み

賃上げ促進税制は、国内の従業員に支払った給与等の総額が前年度(前年)より増えた場合に、その増加額に一定の控除率を掛けた金額を法人税額または所得税額から直接差し引ける制度です。租税特別措置法に定められた税額控除で、法人は第42条の12の5、個人事業主は第10条の5の4が根拠条文です。
経費が増えるだけの損金算入と違い、税額控除は算出された税額そのものを減らします。たとえば給与総額が150万円増えて控除率が30%なら、45万円が法人税額から引かれます。ただし控除できる金額はその事業年度の法人税額(個人事業主は調整前事業所得税額)の20%が上限で、中小企業向けの措置には、引ききれなかった金額を5年間繰り越せる仕組みがあります。
1.2 3つの措置と、いま使えるもの
賃上げ促進税制は企業規模ごとに3つの措置に分かれています。令和8年度税制改正で構成が変わりました。
| 措置 | 対象 | 判定に使う指標 | 控除率(令和8年4月1日以後に開始する事業年度) | 適用できる期間 |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業向け | 青色申告の中小企業者等(資本金1億円以下など)・農業協同組合等 | 雇用者給与等支給額(国内雇用者全員の給与総額) | 15%〜最大35% | 令和9年3月31日までに開始する各事業年度 |
| 中堅企業向け | 常時使用する従業員2,000人以下の青色申告法人(グループ合計1万人超を除く)で中小企業者等以外 | 継続雇用者給与等支給額 | 10%〜最大30% | 令和9年3月31日までに開始する各事業年度(大綱で期限到来により廃止) |
| 全法人向け(大企業向け) | 青色申告法人 | 継続雇用者給与等支給額 | ― | 令和8年3月31日をもって廃止 |
| 個人事業主(所得税) | 青色申告をしている個人(中小事業者=従業員1,000人以下、特定個人=2,000人以下) | 中小事業者は給与総額、特定個人は継続雇用者給与等支給額 | 中小事業者15%〜最大35%(令和9年分) | 令和9年分まで |
全法人向け(大企業向け)の措置は令和8年3月31日をもって廃止されました。中堅企業向けは要件が見直されたうえで、令和9年3月31日の適用期限の到来をもって廃止されることが令和8年度税制改正の大綱で示されています。中小企業向けは、教育訓練費の上乗せが廃止された点を除いて現行制度が維持されており、令和9年3月31日までに開始する事業年度まで使えます。
3つの措置は同じ事業年度に重ねて使うことはできません。中小企業者等に該当する法人は、中小企業向けの措置を選ぶのが一般的です。
2. 令和8年度税制改正で変わったこと
2.1 改正の内容
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 全法人向けの措置 | 継続雇用者給与等支給額+3%以上で10%、最大35% | 令和8年3月31日をもって廃止 |
| 中堅企業向けの賃上げ要件と控除率 | +3%以上で10%/+4%以上で25% | +4%以上で10%/+5%以上で15%/+6%以上で25% |
| 中堅企業向けの教育訓練費の上乗せ | +5%(教育訓練費10%以上増、かつ給与総額の0.05%以上) | 廃止 |
| 中小企業向けの賃上げ要件と控除率 | +1.5%以上で15%/+2.5%以上で30% | 変更なし(+1.5%以上で15%/+2.5%以上で30%) |
| 中小企業向けの教育訓練費の上乗せ | +10%(教育訓練費5%以上増、かつ給与総額の0.05%以上) | 廃止 |
| くるみん・えるぼしの上乗せ | +5% | 維持(+5%) |
| 中小企業向けの最大控除率 | 45% | 35% |
| 繰越控除(中小企業向け・中小事業者) | 5年間 | 維持(5年間) |
改正点は3つです。第1に、全法人向けの措置の廃止です。3月決算の法人であれば令和8年3月期が最後の適用年度になります。第2に、中堅企業向けの賃上げ要件の引き上げです。控除率10%を適用できる継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上から4%以上になり、上乗せも「4%以上で15%加算」から「5%以上で5%加算、6%以上で15%加算」に変わりました。第3に、中小企業向け・中堅企業向けのいずれについても、教育訓練費を増やした場合の上乗せが廃止されました。子育てとの両立支援や女性活躍(くるみん・えるぼし)の上乗せ5%は維持されています。
2.2 いつから適用されるのか
法人は令和8年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から、個人事業主は令和9年分以後の所得税から適用されます。
| 区分 | 改正前の制度が適用される期間 | 改正後の制度が適用される期間 |
|---|---|---|
| 3月決算の法人 | 令和8年3月期まで | 令和9年3月期から(令和9年3月31日までに開始する事業年度が最後) |
| 12月決算の法人 | 令和8年12月期まで(令和8年1月1日開始のため) | 令和9年12月期から |
| 9月決算の法人 | 令和8年9月期まで(令和7年10月1日開始) | 令和9年9月期から |
| 個人事業主 | 令和8年分まで(教育訓練費の上乗せあり・最大45%) | 令和9年分(最大35%。制度は令和9年分で終了) |

注意したいのは、決算月によって改正の影響を受ける時期が違うことです。12月決算の法人の場合、令和8年12月期は令和8年1月1日開始のため改正前の制度が適用され、教育訓練費の上乗せを使えます。改正後の内容が適用されるのは令和9年12月期からです。個人事業主は令和8年分(2026年1月〜12月)までは従来どおりで、令和9年分から教育訓練費の上乗せがなくなります。
3. 中小企業向け措置の要件と控除率
3.1 適用できる事業者
中小企業向けの措置を使えるのは、青色申告書を提出する中小企業者または農業協同組合等です。
| 区分 | 要件 | 対象外となる場合 |
|---|---|---|
| 法人(中小企業者) | 資本金または出資金の額が1億円以下の法人 | 大規模法人に発行済株式の2分の1以上を保有されている法人/複数の大規模法人に3分の2以上を保有されている法人 |
| 法人(資本を有しない法人) | 常時使用する従業員が1,000人以下 | ― |
| 共通(適用除外事業者) | ― | 事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人 |
| そのほかの共通要件 | 青色申告書を提出していること | 設立の日を含む事業年度/合併以外の事由による解散の日を含む事業年度/清算中の各事業年度 |
| 農業協同組合等 | 青色申告書を提出していること | ― |
| 個人事業主(中小事業者) | 常時使用する従業員が1,000人以下の個人で、青色申告書を提出していること | 事業を開始した年/事業を廃止した年 |
資本金1億円以下であっても、大規模法人に発行済株式の2分の1以上を保有されている法人や、複数の大規模法人に3分の2以上を保有されている法人は対象外です。また、事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人(適用除外事業者)も除かれます。設立の日を含む事業年度、合併以外の理由による解散の日を含む事業年度、清算中の各事業年度は適用できません。
3.2 賃上げ要件と控除率
必須の要件は1つだけで、雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増えていることです。継続雇用者ではなく、国内雇用者に支払った給与等の総額で判定するため、人数が増えたことによる増加も要件の判定に含まれます。
| 要件 | 内容 | 控除率 |
|---|---|---|
| 必須要件 | 雇用者給与等支給額が前事業年度より1.5%以上増加 | 増加額の15% |
| 上乗せ① | 雇用者給与等支給額が前事業年度より2.5%以上増加 | +15%(合計30%) |
| 上乗せ② | その事業年度にくるみん認定またはえるぼし認定(2段階目以上)を受けた、もしくは事業年度末にプラチナくるみん・プラチナえるぼしに該当する | +5%(合計最大35%) |
| 廃止された上乗せ | 教育訓練費が前事業年度より5%以上増加し、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上(令和8年3月31日までに開始した事業年度は+10%、最大45%) | 令和8年4月1日以後に開始する事業年度は適用なし |
| 控除の上限 | 調整前法人税額の20% | ― |
| 繰越し | 控除しきれなかった金額は5年間繰越し(繰越分を控除する事業年度に給与総額が前事業年度を超えていることが必要) | ― |

増加割合が2.5%以上であれば控除率は30%になり、さらにその事業年度にくるみん認定またはえるぼし認定(2段階目以上)を受けている場合や、事業年度末にプラチナくるみん・プラチナえるぼしに該当する場合は5%が加算され、最大35%になります。令和8年3月31日までに開始した事業年度であれば、教育訓練費を前事業年度より5%以上増やし、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば10%が加算され、最大45%でした。
3.3 用語の意味
計算でつまずきやすいのが用語です。
| 用語 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 国内雇用者 | 法人または個人の使用人のうち、国内の事業所の賃金台帳に記載された者 | 役員、役員の親族などの特殊関係者、使用人兼務役員は除く。パート・アルバイト・日雇いは含む。派遣社員は派遣元の雇用者 |
| 給与等 | 所得税法上の給与等(基本給、賞与、各種手当) | 退職金は含まない |
| 雇用者給与等支給額 | 適用事業年度に損金算入された国内雇用者への給与等の支給額 | 給与に充てるため他の者から受ける補塡額があれば控除する |
| 比較雇用者給与等支給額 | 前事業年度の雇用者給与等支給額 | 前事業年度に退職した従業員の給与も含めた総額。差し引くのは誤り |
| 控除対象雇用者給与等支給増加額 | 雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額 | 調整雇用者給与等支給増加額を超える場合はそちらが限度 |
| 調整雇用者給与等支給増加額 | 雇用安定助成金額(雇用調整助成金など)を控除して計算した増加額 | 控除額の計算にのみ使い、要件判定には使わない |
| 継続雇用者 | 前事業年度と適用事業年度のすべての月に給与の支給を受けた国内雇用者 | 中堅企業向け・全法人向けの判定に使う。雇用保険の一般被保険者に限り、継続雇用制度の対象者は除く |
| 調整前法人税額 | 税額控除前の法人税額 | 個人事業主は調整前事業所得税額 |
国内雇用者は、賃金台帳に記載された従業員で、役員と役員の親族などの特殊関係者は含まれません。パート、アルバイト、日雇い労働者は含まれますが、派遣社員は派遣元の雇用者であるため、派遣先の国内雇用者にはなりません。給与等は所得税法上の給与等で、退職金は含まれません。雇用調整助成金などを受け取っている場合は、控除額の計算でその分を差し引く調整が必要です。
3.4 控除の上限と5年間の繰越し
控除できる金額は、その事業年度の調整前法人税額の20%が上限です。上限を超えて控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)は、翌事業年度以後5年間にわたって繰り越せます。繰り越した金額を控除する事業年度では、その事業年度の雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていることが必要です。賃上げをした年に赤字などで法人税額が出なかった場合でも、繰越しによって後年に取り戻せる可能性があります。
4. 計算例
| 項目 | 中小企業(法人)の例 | 個人事業主の例 |
|---|---|---|
| 前事業年度(前年)の給与総額 | 5,000万円 | 800万円 |
| 当事業年度(当年)の給与総額 | 5,150万円 | 824万円 |
| 増加額 | 150万円 | 24万円 |
| 増加率 | 3%(2.5%以上) | 3%(2.5%以上) |
| 控除率 | 30%(くるみん認定があれば35%) | 30% |
| 税額控除額 | 45万円(35%なら52万5,000円) | 7万2,000円 |
| 控除の上限 | 法人税額200万円×20%=40万円 | 調整前事業所得税額の20% |
| その年に控除できる額 | 40万円 | 上限の範囲内で7万2,000円 |
| 繰越し | 控除しきれない5万円を5年間繰越し | 同様に5年間繰越し |
前事業年度の給与総額が5,000万円、当事業年度が5,150万円(増加額150万円、増加率3%)の中小企業の場合、増加率が2.5%以上のため控除率は30%となり、税額控除額は45万円です。法人税額が200万円であれば上限は40万円となるため、その年は40万円を控除し、残りの5万円を5年間繰り越します。くるみん認定を受けている場合は控除率が35%になり、控除額は52万5,000円です。
個人事業主の例では、従業員への給与総額が前年800万円から当年824万円(増加額24万円、増加率3%)に増えた場合、控除率30%で7万2,000円の所得税額控除となります。調整前事業所得税額の20%が上限です。
5. 中堅企業向け措置
常時使用する従業員が2,000人以下の法人(グループ全体で1万人を超える法人を除く)は、中小企業者等に該当しない場合に中堅企業向けの措置を使えます。
| 継続雇用者給与等支給額の増加割合 | 改正前の控除率 | 改正後の控除率(令和8年4月1日以後に開始する事業年度) |
|---|---|---|
| +3%以上 | 10% | 適用なし |
| +4%以上 | 25% | 10% |
| +5%以上 | 25% | 15% |
| +6%以上 | 25% | 25% |
| 教育訓練費の上乗せ | +5% | 廃止 |
| くるみん・えるぼしの上乗せ | +5% | +5%(維持) |
| 最大控除率 | 35% | 30% |
中小企業向けとの大きな違いは、判定に使う指標が継続雇用者給与等支給額であることです。前事業年度と適用事業年度のすべての月で給与の支給を受けた従業員に限って比較するため、採用による増加は要件の判定に反映されません。資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の法人は、マルチステークホルダー方針の公表と経済産業大臣への届出も必要です。
6. 個人事業主の場合
6.1 個人事業主も対象になる
青色申告書を提出している個人事業主も、従業員に給与を支払っていれば賃上げ促進税制を使えます。制度の構成は法人と同じで、常時使用する従業員が1,000人以下の個人は「中小事業者」として、法人の中小企業向けと同じ要件・控除率が適用されます。
| 区分 | 令和8年分 | 令和9年分 |
|---|---|---|
| 中小事業者(従業員1,000人以下)の必須要件 | 給与総額が前年より1.5%以上増加 | 同左 |
| 基本の控除率 | 増加額の15% | 増加額の15% |
| 上乗せ①(+2.5%以上) | +15% | +15% |
| 上乗せ②(教育訓練費) | +10%(前年より5%以上増、かつ給与総額の0.05%以上) | 廃止 |
| 上乗せ③(くるみん・えるぼし) | +5% | +5% |
| 最大控除率 | 45% | 35% |
| 控除の上限 | 調整前事業所得税額の20% | 同左 |
| 繰越し | 5年間 | 同左 |
| 特定個人(従業員2,000人以下) | 継続雇用者給与等支給額+3%以上で10%ほか | +4%以上で10%、+5%以上で15%、+6%以上で25%。教育訓練費の上乗せは廃止 |
| 中小事業者・特定個人以外の個人 | 適用あり | 令和8年末で廃止 |
令和8年分までは、給与総額が前年より1.5%以上増えていれば増加額の15%、2.5%以上なら30%、教育訓練費の上乗せ10%、くるみん・えるぼしの上乗せ5%を加えて最大45%です。令和9年分からは教育訓練費の上乗せが廃止され、最大35%になります。控除の上限は調整前事業所得税額の20%で、控除しきれなかった金額は5年間繰り越せます。
6.2 個人事業主が注意する点
制度が使えるのは令和9年分までです。事業を開始した年と廃止した年は適用できません。また、生計を一にする配偶者や親族に支払う青色事業専従者給与は、国内雇用者に対する給与等に含まれないため、増加額の計算に入れられません。従業員を雇っていない一人親方やフリーランスは対象外です。
7. 申告の手続き
7.1 事前の申請や認定は不要
賃上げ促進税制に、事前の申請書や認定の手続きはありません。確定申告の際に、法人であれば法人税申告書に別表六(三十一)などの明細書を添付し、個人事業主であれば確定申告書に控除の対象となる金額、控除を受ける金額、その計算に関する明細書を添付します。
| 区分 | 内容 | 提出・保存 |
|---|---|---|
| 法人 | 法人税申告書に別表六(三十一)などの明細書を添付 | 確定申告書等に添付(事前の申請・認定は不要) |
| 法人(繰越控除) | 繰越税額控除限度超過額の明細書 | 超過額が生じた事業年度以後の各事業年度の申告書に添付し、控除する事業年度の申告書にも明細を添付 |
| 個人事業主 | 確定申告書に控除の対象となる金額・控除を受ける金額・計算の明細書を添付 | 確定申告書に添付 |
| 教育訓練費の上乗せを使った年度 | 実施時期・内容・対象者の氏名、支出年月日・内容・金額・相手先を記載した書類 | 保存(申告書への添付は不要) |
| 資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の法人 | マルチステークホルダー方針の公表について経済産業大臣への届出があった旨を証する書類の写し | 確定申告書等に添付 |
| 申告期限 | 法人は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、個人事業主は翌年3月15日 | ― |
申告期限は法人税・所得税の申告期限と同じで、法人は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、個人事業主は翌年3月15日です。
7.2 当初申告に記載した金額が上限になる
この制度は、確定申告書等に明細の添付がある場合に限り適用されます。さらに、控除の基礎となる控除対象雇用者給与等支給増加額は、当初の確定申告書に添付した書類に記載された金額が限度です。あとから修正申告や更正の請求で金額を増やすことはできません。国税庁も、前事業年度の給与総額から退職者分を差し引いてしまうなど、別表の記載誤りによって控除額が正しく計算されていない事例が見受けられると注意を促しています。申告時点で正確に集計することが重要です。
7.3 教育訓練費の上乗せを使った年度の書類保存
令和8年3月31日までに開始した事業年度(個人事業主は令和8年分まで)で教育訓練費の上乗せを使った場合は、教育訓練等の実施時期・内容・対象となる国内雇用者の氏名、費用を支出した年月日・内容・金額・相手先を記載した書類を保存する必要があります。申告書への添付は不要ですが、税務調査で確認される書類です。
8. よくある誤解と注意点
| よくある誤解 | 正しい内容 |
|---|---|
| 事前に申請書を提出して認定を受ける必要がある | 事前の申請・認定は不要。確定申告書に明細書を添付するだけ |
| 定期昇給分は対象にならない | 実際に支給した給与等の総額で判定するため、定期昇給・賞与・各種手当も含まれる |
| 賃上げした従業員を1年以上雇い続ける義務がある | そのような要件はない。「継続雇用者」は判定に使う用語で、雇用継続の義務ではない |
| 一部の従業員だけを賃上げすると使えない | 対象者を限定できないという決まりはない。給与等の総額で判定する |
| 平均賃金が上がっていれば要件を満たす | 平均ではなく給与等の総額で判定する |
| 派遣社員や役員報酬も増加額に含められる | 派遣社員は派遣元の雇用者。役員、役員の親族などの特殊関係者、使用人兼務役員は除く |
| 退職金の増加も対象になる | 給与等に退職金は含まれない |
| 赤字だと申告しても意味がない | 中小企業向けは5年間の繰越しができるため、明細書を添付して申告しておく意味がある |
| 設立初年度から使える | 設立の日を含む事業年度は適用できない。個人事業主も開業年・廃業年は適用できない |
| あとから修正申告で控除額を増やせる | 当初申告に記載した控除対象雇用者給与等支給増加額が限度 |
とくに誤解が多いのが次の3点です。
第1に、定期昇給分も対象になります。制度はベースアップかどうかを問わず、実際に支払った給与等の総額で判定します。賞与や各種手当も給与等に含まれます。
第2に、賃上げをした従業員を一定期間雇い続けなければならないという要件はありません。判定はあくまで事業年度単位の給与総額の比較で行われます。
第3に、赤字でも制度そのものは使えます。ただし控除できる法人税額がないため、その事業年度に実際の減税効果はありません。中小企業向けであれば5年間の繰越しができるので、明細書を添付して申告しておくことに意味があります。
9. よくある質問
9.1 パートやアルバイトの給与も含まれますか?
含まれます。賃金台帳に記載された国内雇用者であれば、雇用形態を問わず対象です。一方で、役員、役員の親族などの特殊関係者、使用人兼務役員に支払う給与は除かれます。派遣社員は派遣元の雇用者であるため、派遣先では含まれません。
9.2 役員報酬を増やした場合は対象になりますか?
なりません。役員報酬は国内雇用者に対する給与等に当たらないため、増加額の計算から除きます。役員報酬だけを増やしても賃上げ要件は満たせません。
9.3 助成金を受け取っている場合はどうなりますか?
雇用調整助成金など、給与等に充てるために国や地方公共団体から受け取った金額がある場合は、控除額の計算でその金額を差し引いた「調整雇用者給与等支給増加額」が上限になります。要件の判定と控除額の計算で扱いが異なるため、助成金を受けた年度は計算に注意が必要です。
9.4 他の税制と併用できますか?
中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制など、設備投資に関する税額控除とは併用できます。ただし、賃上げ促進税制の3つの措置を同じ事業年度に重ねて使うことはできず、地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除の適用を受ける場合は、控除額の調整が必要です。また、法人税額から控除できる特別控除額には全体の上限(調整前法人税額の90%)があります。
9.5 設立初年度でも使えますか?
使えません。設立の日を含む事業年度は比較対象となる前事業年度がないため、適用対象から除かれています。個人事業主も、事業を開始した年と廃止した年は適用できません。適用できるのは2期目以降です。
10. まとめ

この記事では、賃上げ促進税制の仕組みから、中小企業向けの要件と控除率、令和8年度改正の内容と適用時期、個人事業主の扱い、5年間の繰越控除、申告の手続きまでを解説しました。
中小企業にとっては、給与総額が前年度より1.5%以上増えていれば使える、要件がシンプルで効果の大きい制度です。令和8年度改正で教育訓練費の上乗せがなくなり最大控除率は35%になりましたが、賃上げ要件そのものは変わっていません。制度が使えるのは令和9年3月31日までに開始する事業年度(個人事業主は令和9年分)までで、その後の延長は決まっていません。
賃上げを予定している事業年度は、決算を迎える前に給与総額の増加率を試算しておくと、要件を満たすかどうかを確認したうえで賞与や昇給の判断ができます。控除の金額は当初申告に記載した金額が上限になるため、申告時の集計精度も重要です。自社が対象になるか、いくら控除できるかの試算は、決算前のご相談で対応しています。
この記事のテーマに関連するサービス


この記事を読んだ方に
記事の内容を自社に当てはめて確認したい方は、30分の無料相談をご利用ください。ご契約をお願いする場ではありません。
無料相談を申し込む(30分・オンライン可)


